僕のお父さんは光のお父さんではなかったけどゾンビと戦うお父さんだった ③
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前回↓
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前回までのあらずじを大雑把に言いますと、今は亡き僕のお父さんが「wii版バイオハザード4」というゲームに徐々にハマっていく、といった感じのお話でした。
ノーマルモードクリアは単なる序章に過ぎなかった
歩みの遅い父でしたがプレイ時間を重ねるにつれ、何度もゲームオーバーになりながらもハンドガンからショットガン、マシンガン、マグナムなど強い武器を手に入れ、苦戦はしつつも中ボスたちを倒していき、ついに最後のボスの前に立つことになりました。(正確にはゲームのキャラクターが、ですが)
その時、ちょうど家に居た僕はラスボス戦ということもあり、父の後ろでその戦いぶりを見ていました。
ここまで長い道のりだったね、お父さん。
初めてチェーンソー男にやられたときは一発死のショックとその理不尽さで少し寝込んだよね。
謎解きがなかなか解けなくて、くやしそうに何度も僕のところに聞きに来たよね。
木箱を壊して中からアイテムじゃなくて蛇が飛び出してきたときは何度も椅子から落ちそうになるくらいびっくりしてたよね。
60過ぎのおじいちゃんがよくここまでやってこれたと息子ながら感心します。
僕たちのファミコンを叩き壊した父が、ゲームなんて絶対にやることないだろうと思っていた父が、今こうして僕たちと同じようにゲームに夢中になり、その楽しさの真っただ中にいる。
何十年かの時を超えてやっと父とゲームの面白さ、ゲームの楽しさを共有できたような気がして嬉しくなり、後ろで見ている僕も何故だか興奮してきます。
今まで培ってきたすべてを最後のボスにぶつけて勇猛果敢に戦うお父さん。
しかしラスボス戦は手ごわく、何度もゲームオーバーになってしまいますが父はあきらめずに何度も挑戦していきます。
「お父さんっ、目が弱点だから目を狙うんだよっ!」
こういうネタバレ的なアドバイスはあまりすべきではないと思いながらも、熱がはいってつい口が滑ってしまいます。
そしてついにギリギリのところではありますがラスボス戦を制し、最後の脱出ミッションで何度かつまずきはしたものの、父はノーマルモードを無事クリアしたのです。
よかったねお父さん。
ゲームクリアした後も新鮮な気持ちでプレイするお父さん
はてしなく長く感じられたゲームもようやくクリア出来、つかのまの達成感に浸るお父さん。
「はあ~終わった、終わったー。もうこのゲーム機いらんからもっていっていいぞ」
今までさんざん楽しんでおいてクリアしたとたん厄介払いみたいな言い方をする父にちょっとだけムッとしながらも、その時は早急にやりたいゲームも無かったので、
「今やりたいゲームも特にないし、接続しなおすの面倒だからしばらくこのままにしておいてよ。それにノーマルモードをクリアしたら次に難しいモード(プロフェッショナルモード)が出来るようになるよ」
と教えてあげたのですが。
「もう、これ以上難しいのは無理やわ」
と最高難易度のプロフェッショナルモードには手をつけようとはしませんでした。
うん、まあ無理もないね。
これで父の「バイオハザード4」も終わりだろうなと思ってました。
クリアできたとはいえ、ゲームに不慣れだった父の総プレイ時間は普通にゲーム慣れした人の三倍以上はかかっていたと思います。
でもそれだけ長い時間楽しめて何よりだったね、お父さん。
また父が楽しめるようなゲームが見つかるといいけど・・・なんて思いつつ、何事もなく何週間が過ぎたある日、ふと父の部屋をのぞくとそこにはまた「バイオハザード4」をプレイしている父の姿が。
「あれ、またやってんの?もう一回クリアした後だからあまり面白くないでしょ?」
と僕が聞くと父はちょっと照れくさそうに
「だいぶ日が空いたから、もうほとんど忘れた。だから新鮮な気持ちで出来る」
と、謎の自慢をしながらゲームをしてたのを覚えています。
「それならクリア前のデータをわざわざロードして遊んでないで、強くてニューゲームやってみたら?」
「ん?なんかそれは?」
強くてニューゲームとはクリア時に持っていた強い武器やアイテム、所持金などを持ち越せて新たに同じ難易度のゲームで遊べるというものです。
ゲーム開始時には攻撃力の弱いハンドガンくらいしかもっていなかったのが、しょっぱなから最強クラスのマグナムやマシンガン等の強い武器を所持してスタートできるのです。
たしか「バイオハザード4」ではクリアデータをそのままロードすれば強くてニューゲームが出来たと思います。
初めはなんのことだかいまいちピンと来ていなかった父もゲームを進めるにつれ、序盤で苦戦していた敵が強い武器によって薙ぎ払われていくのを見て目の色が変わります。
「こりゃあ、ええわ!」
何度も倒されてきた序盤の敵を瞬殺する快感を味わいながらまた「バイオハザード4」の世界にハマっていくお父さんなのでした。
これ全部ワシのデータ
強くてニューゲームの快感にハマり、楽々とゲームをクリアしていくお父さん。
一度クリアしているだけあって前回よりもスムーズにこなしていきます。
おそらく前回よりも半分くらいの時間で二回目をクリアしました。
クリア後はしばらくゲームから離れます。
そして忘れたころにゲームを再開して新鮮な気持ちでまた新たに挑むという、コスパのいいゲームスタイルでゲームを楽しんでしました。
ある時、たまたま父がこれからゲームを始めようって時に後ろから見ていたんですが、おびただしい数のセーブデータがそこにはありました。
「バイオハザード4」は複数セーブデータをつくれるのですが父は序盤、中盤、後半と分けてセーブデータを作り、序盤で遊びたいときはそのデータをロードし、中盤ならそのデータという感じで好きな時に好きな場所で遊べる仕組みを作っていました。
そんな感じでノーマルモードを何十回と遊びつくした父はとうとう最高難易度のプロフェッショナルモードに挑戦することになりますが、苦戦はするもののノーマルモードを遊びつくしただけあってなんとかクリアできたようです。
そこからはプロフェッショナルモードをなん十週もするという、普通の人から見ればまるで苦行のような周回もお父さんは
「しばらくせんかったら忘れてるからちょうどいい」
と、楽しそうにプレイしていました。
名実ともにプロフェッショナルなお父さん
ゲーム開始から一年以上たっても父の「バイオハザード4」は終わることがありません。
クリア後特典のミニゲームである「THE MERCENARIES」、「ADA THE SPY」、「the another order」なども遊びつくしましたが、やはりメインはプロフェッショナルモードの周回で、気付けばセーブデータ一覧は父のプロフェッショナルモードのセーブデータで埋め尽くされいました。
久しぶりに父のプレイを見てみると既に父は誰よりもうまくなっていました。
敵が投げつけてくる鎌やナタのような武器を銃で狙撃してはじき返すお父さん。
ヘッドショット(頭部を狙う精密射撃)⇒ 敵がよろけたところにダッシュで駆け寄り、蹴り攻撃 ⇒ 吹き飛んで倒れた敵にダッシュで近寄り、倒れて無防備な敵にナイフ攻撃を繰り返す
そのルーティーンを流れ作業のように冷静にこなすお父さん。
どの木箱を壊せばアイテムではなく蛇が飛び出してくるか全部覚えていて、蛇が出てくる木箱は離れた場所から銃で壊すお父さん。
「ライフルの弾が余り気味だからそっちを優先して使うか」と弾丸のマネジメントにもそつがないお父さん。
ここまで華麗にレオン・S・ケネディ(ゲームの主人公)を操るお爺ちゃんはきっとお父さんくらいだよ。
そんな父でしたが、バイオハザードシリーズでハマったのはこの「バイオハザード4」だけでシリーズの他のゲームを薦めてみてもいまいちピンと来ないようで手を付けることはありませんでした。
その代わりといってはなんですが他にゼルダの伝説シリーズにハマって、「トワイライトプリンセス」、「時のオカリナ」、「スカイウォードソード」をクリアして「退魔の剣を振るうお父さん」になったのでした。
このころはかなりゲーム慣れして、割とそつなくプレイしていました。
そして任天堂「Wii」の後継機である「Wii U」ではJOYSOUNDのカラオケが自宅で楽しめると知り、今度は自らが「Wii U」とマイクを自腹で購入して自宅でカラオケを楽しみつつ、ゼルダの伝説の次回作を楽しみに待っていました。
父の急逝
そんな父も去年、不慮の事故で突然この世を後にしました。享年73歳でした。
知らせを聞いて病院に駆け付けたときには既に心肺停止状態で、一縷(いちる)の望みをかけた蘇生機が外されたとき、医師がドラマでよく見るシーンのように時計を見て臨終を告げました。
その時におそるおそる触ってみた父の手の冷たさ、硬さ。
父の顔に自分の顔をこすりつけて何度もお父さん!お父さん!と叫ぶ母の慟哭、涙。
それらは一生忘れることはできないでしょう。
父の葬儀の時、家に遊びに来ていた時は父がゲームするのをよく隣で見ていた中学生の甥っ子が涙ながらに
「新しいゼルダが発売されたら僕はお爺ちゃんの名前でプレイするんだ!」
と言っていたのが印象的でした。
そして先日、発売された新しいゼルダの伝説シリーズのブレスオブザワイルドをクリアしました。父の買った「Wii U」で。
甥っ子も忙しいクラブ活動の合間を縫ってうちに来てはプレイしています。父の名前のアカウントで。
お父さんにもプレイさせてあげたかったなあ。
そんなことをドラマ「光のお父さん」を見て思い出したのでした。
以上で終わります。
長々とお付き合いくださいましてありがとうございました。
父との物語を共有していただいてありがとうございました。